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悲しみは 悲しみのままで ─ 五年間の心の記録 ─

 
 
 

八田 圭子 著

A5判並製150ページ 本体1300円+税+送料


◆著者のことば

2015年9月のある朝、突然夫をなくしました。
それから折りにふれ、ぽつぽつ書きためた心の呟き。
5年分の中から拾い集めたものを一冊にまとめたら、
冷え固まった心が、時の経過とともにゆっくり
ほどけていく姿が浮かび上がりました。

痛むときは 頑張りすぎないで。

それぞれの人生、日常と重ね合わせて、ゆっくりと
お好きなページから読んでいただけたら嬉しいです。

八田 圭子


◆著者略歴

1963年、京都市に生まれる。男女二児の母。
「想像力がひとを豊かにする」をモットーに映画製作に携わり、プロデューサーや原案を務める。ほかに、原案の取材を基にしたルポの執筆、演劇・音楽会のステージ制作なども手掛ける


◆本文より

2015年9月20日

「当たり前」

 夜、寝る支度をしながらふと手を止めた
 わが家は四人家族だったのに、
 まるで当たり前のように布団を三つ敷いている

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 もう二週間が経とうとしている
 自分の感情を置き去りにして、あるいは目を背けて、
 ただ子どもの生活を守ることだけを考えてきた
 忙しすぎた日々を悔いる
 自分にもう一歩の親切が持てていれば…

 あの日を境に家族が一人欠けたのに、当たり前のように暮らしている
 そんな毎日が悲しい

2015年11月11日

こころのかさぶた

 昨日は、所用で岡崎公園界隈へ出掛けた。
 動物園へと向かう二条通りは、大文字山を奥に望んで見事な紅葉だった。
 東山三条で妹と会い、久しぶりにハンバーガーを頬張りながら談笑した。こんな時間は本当に久しぶりだった。

 今日は秋晴れ、とても気持ちいい。
 ベランダに洗濯物を干し終えて、空を見上げながら…

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 夫は死んでしまったのだと、認めないとあかんのかなあ、と思った。私にすれば、雲の上へ突然、単身赴任したようなものだ。どこか私の知らない遠い空の下にいるのだと思ったらあかんのかなあ、などと考えた。
 それではあかんから、お通夜・お葬式をして、月日を追って法要して、とお別れの儀式を重ねるのだろう。
 まだ、心はラップで蓋されているようだ。
 あまりの衝撃に、心が出来るだけ動かないように、と自動ロックがかかっているのかもしれない。心がまともに動き始めたら怖いと思っている自分もいる。でも、いつか動き出す時が来る予感もするし、それが来ないとその先に進めないのかもしれない。
 心の蓋は、けがのかさぶた。
 そして、心がこじれて困るから、本当はどこかで一度、思いっきり涙を流したい。

2016年10月1日

嵐山散策

 地下鉄のスタンプラリーに出掛けた。
 今から遊びに出掛けるには遅いかなという昼下がり、どうせ家には三人のほかに誰もいないし、と思い切って家を出た。
 ちょっと頑張って歩いたり、地下鉄に乗ったりして三つの駅を巡り、最後の駅の切符売り場で恐竜の絵の缶バッヂをもらった。
 向こうに、駅から出ていく嵐電が見えた。

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 もう夕方だけど、せっかくここまで来たんだしと、急きょ嵐山へ行くことにした。缶バッヂを手に入れた嬉しさに予想外のお出掛けが加わり、二人ともわくわくしている。
 嵐山に着いたら、熱々のコロッケを買い食いしながら歩き、渡月橋を渡って桂川の河原へ。
 ほんの少し足を延ばしただけで、すっかり遠方から来た観光客の気分に浸れた。
 暮れていく空の下、三人で大きな岩に腰かけながら、余興にテレビ番組の俳句コーナーを真似てみた。

 嵐山/嵐電乗って気持ちよく
 ふと気がつけば/もう六時前(息子)

 嵐山/水がざあざあ/鳴っている(娘)

 渡月橋/子らと出かけて/旅気分(私)

 川の音、暮れていく光、少し肌寒くなってきた風。しばらくの間、嵐山の自然の中に身を置いて、河川敷ではしゃいでいる二人を見ていた。どんな過去もすべて、懐かしい思い出になったような気がした。
 この三人で力を合せてやってきたんだな、とても辛いことを乗り越えて、これからもやっていくんだな、と感慨に浸っていた。

 昨夜、夫が亡くなって以来初めて、彼のわざとおどけた表情や笑い声、柔らかでもきっぱりした口調なんかを思い出していた。というより、自然に次々に蘇ってきて、そんな表情もたくさんあったことを思い出した。
 楽しかったね。
 でもまだまだ、いろんな楽しい出来事があるはずだったね。

2017年11月1日

夜間飛行の灯

 今日もよく冷える。
 満ちるまであと数日の月が、晴れ亘る夜空に架かって煌々と瓦屋根を照らしている。
 その柔らかく静かな光を見ていたら、赤い灯が点滅しながら横切って行った。
 夜間飛行。
 新婚旅行でカナダへ行ったなあ。結婚式、披露宴、パーティーと慌ただしく一日を終えた翌日、二人とも疲れと緊張とこれからの希望とを胸に発った、長時間の空の旅だった。

 お月さまは、じっと地上を見つめている。
 飛行機は、ぐんぐん離れていく。
 うちの家も家族も、ここでじっと暮らしていく。あの人だけが離れた。

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 寿命のような気もするし、何かの間違いであの日が突然訪れた気もする。
 もう、こうやって思うしかなくなった人。
 思わなくなったら、消えてしまう。
 生きた痕跡も記憶もなくなれば、一緒に暮らし子育てした確かなはずの日々も幻…。
 存在ってもろい。
 でも、夫は紛れもなく生きていた。彼がこの世に確かにいたことを守り続けたい。
 生きているものを守り育てながら、去った人の存在も守っていく。
 今までずっと、彼の人生は幸せだったのだろうか、という答のない問いをくり返してきた。
 でも、人が幸せだったかどうかなんて、どうやって決めるのだろう、とこの頃考える。
 人生のどこを切り取って判断するのか。
 すべてのことは、生きている者の気が済むように考えるしかない。
 思い方ひとつで変わるんだ、この世界は。

2018年4月20日

お茶会

 かねてより、ゆっくり話してみたいと思っていた知人が、桜が見事に咲いたからお花見でもいかが、と声をかけてくれた。
 陶芸家である知人と、陶芸の心得のある彼女の友人と三人で、窓からちょうど花の見える部屋で抹茶をいただいた。
 久し振りに、芸術とか表現についてお喋りして心地よく、心の中の澱みたいなものが流されて軽くなった。

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 それぞれの道、目指す方向など思い思いに話した。私は、一度、予期せず自分ががしゃがしゃと崩れたから、今の自分やこの先については何も話せることがない、と言った。
 すると、知人はそのままで行けばいいじゃない、と言った。
 がしゃがしゃと崩れた、その先の自分はどんな自分なのか。きっと、それ以前とは違っているし、そのこともまた大事だと。
 崩れたからこそ立ち現れる、新しい自分。

 思えば、「自分」とは積み上げたものが崩されてはまた積み直し、を何度でも繰り返しているものなのかもしれない。当然、最初の自分とは違っていく。
 再生することに生きる意味がある。大切なのは、崩れてそこで止まってしまわないこと。それを、昔から「試練」と呼んできたのかもしれない。

 入学、卒業、就職、社会参加、結婚、出産。子育てに奮闘した、家族を喪った…。環境が変わるたびに、以前のままでは通用しなくなり、七転八倒するうちに新しい自分を手に入れる。
 陶芸家は、崩れることもまた良しとする。丹精込めて作ったものを、時には自ら壊しながら、さらなる高みに向かう。
ひとの人生もそういうことか。

2019年1月16日

たからもの

 大切なひとがいま、目の前にいてもいなくても、愛おしい過去の日々に二度と戻れないのは同じ。そして、一番深い悲しみの日に戻ることも決してない。

 思うたびに心が痛み、そのうちに、その痛みは悲しみだと気付く。悲しみを悲しみとして感じるうちに、やがて愛おしいという感情が蘇り、掛け替えのない宝物として心の中にしまえるようになる。

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 家族で力を合せて乗り越えてきた。
 子どもたちは、一日一日生きていくことの大変さと大切さを身に付けていく。

 あの日、病院の霊安室で、夫が話しかけてきた気がした。私の斜め上から、しまった、やっちゃった、というように。
 大丈夫、いつまでも私たちは家族だよ!
 そう、力を込めて彼に約束した。
 たとえ、どんなことになっても、家族から切り離されない安心感を子どもたちに与えたくて、まぼろしの声を聞いたのかもしれないし、本当に魂で交信したのかもしれない。
 その時の約束が、ずっと私の心の支えになっている。

 心の中で大切なひとが生き続けるということを、初めて経験している。
 励ましや悲しみや孤独の言葉たち…。
 読んだり聞いたりしてよく解っているつもりだった。けれど、それは言葉の表面だけの理解、イメージに過ぎなかった。
 心底感じたり本当に理解したりするのは、簡単に出来ることじゃない。

 「想像力が ひとを 豊かにする」
 私の仕事のモットーだった。
 そう信じる一方で、想像力を働かせるには何かしらの経験が必要だということも、仕事を通じて学んだ。
 でも、それすらも当時は単なるイメージの中での理解だったかもしれない。
 いま、そんなこともふと考えた。

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